未成年者・ヤングーのアルコール依存症

ヤングは短期で依存症に
久里浜病院には、最年少で一六歳からの若いアルコール依存症が受診しています。未成年者のアルコール依存症と、二O代のアルコール依存症は特徴が似ているので、ここでは未成年・ヤングのアルコール依存症について分析します。
未成年者における問題飲酒群は、近い将来のアルコール依存症に移行するリスクの高いアルコール依存症予備軍であることは、何度も述べました。若いアルコール依存症者は、習慣飲酒開始からアルコール依存症になるまでの期聞が短く、未成年者では数か月から二年、二O代の男性の依存症では平均六年とも説明しました。二O代の若い女性のアルコール依存症においては、過食症との合併例が多いとI章で述べましたが、過食症の合併した若い女性のアルコール依存症では、習慣飲酒開始からアルコール依存症になるまでの期間は平均三年と、男性よりもっと短いこともあげられます。
このように若いアルコール依存症において、短い期間にアルコール依存症になってしまうのは、いくつかの因子が考えられます。

(1)アルコールは未成年者や若い人に対して毒性が強く、特に中枢神経に対して破壊的な作用を持っていると考えられます。これは、二O代のアルコール依存症者ですでに、知能低下や脳萎縮がもたらされていることからもいえることです。
(2)未成年者や若い人の中には、最初からムチャ飲みを続けるタイプがあり、このような自己破壊的飲酒は、早い時期のアルコール依存症に移行する可能性があります。確かに、中年のアルコール依存症においても、事業の失敗や、家族の死などをきっかけにして自己破壊的飲酒が始まるタイプがあり、そのようなタイプでは、数か月の短い期間でアルコール依存症に陥ることがあります。
-章で紹介したように、登校拒否や青年期アパシーや引きこもりの子どもや過食症においては、自己破壊的な飲酒が多いのです。このようなタイプでは、仲間と一緒に飲む段階、大人でいえば社交的飲酒の段階を経ることなく、最初から一人で孤独に泥酔するような飲み方をするのです。
(3)若いアルコール依存症においては、他の薬物乱用の経験を持つ者が半数を占め、受診した時にアルコールと共に他の薬物依存を合併している者が二O%存在するので、他の薬物依存との相乗作用が考えられるのです。アルコールも依存性薬物の一種ですが、薬物依存においては、一つの薬物に対する依存が生じると、他の薬物への依存は容易に発生します。たとえば、シンナー依存の子どもがシンナーをやめようとして飲酒すると、すぐにアルコール依存になってしまうのです。
(4)同じように大量に飲酒していても、アルコール依存症になる人とならない人がいます。これは何らかの体質的な因子が働いていると考えられています。同じように若くしてアルコール依存になる人は、体質的にアルコールに対する脆弱性があるのではないかとも考えられます。スウェーデンにおける養子研究では、若い時にアルコール依存になるタイプは、血のつながった親にアルコール依存症が多いと報告されています。確かに日本でも二O代のアルコール依存症においては、親がアルコール問題があったケースは三六%におよび、中年のアルコール依存症における、親のアルコール問題を持つケースの二01三O%と比較してやや多いという印象を持ちます。

若い依存症に共通するアイデンティティ障害
若いアルコール依存症は、アルコール依存症になるまでの期間が短いばかりでなく、さまざまな特徴を持っています。その一つは、物事の継続性や持続力が不足し、生き方において不器用であるということです。たとえば、彼らは学校の中退者が多いのです。高校や大学や専門学校における中退の経験者は、彼らの四O%におよんでいます。中退理由は、アルコール問題というより、「学校がつまらなかった」「バイトに忙しかった」「同棲を始めた」「遊ぶことに夢中だった」などの理由をあげています。つまり彼らはアルコール問題発生以前において、何らかの理由で自分の志望を変えています。これは職業選択においても同じで、アルコール問題による失敗で職を転々とし始める前に、何度か仕事を変えています。結婚においても、二O代のアルコール依存症は、四O%の人が結婚経験を持っていましたが、そのうちの七O%は離婚をしており、三O%の人だけが結婚を継続していたのでした。若いアルコール依存症におけるもう一つの特徴は、彼らの自己破壊的傾向、あるいは破壊的な行動です。若いアルコール依存症者では、最初から自己破壊的なムチャ飲みをしてきたタイプがいることは先に述べました。飲酒運転による事故の経験者は四O%におよび、飲酒によって警察に捕まったことのある人は五O%に及ぶことも先に触れました。それだけでなく、彼らの四O%は自殺未遂の経験を持っていました。これはアルコール問題発生以前に行った人と、アルコール問題発生後に行った人がいますが、時期の違いは余り関係がないと考えられます。若いアルコール依存症者における自己破壊的飲酒と、自殺未遂は、彼らの自己破壊的傾向をよく表しています。
若いアルコール依存症に見られる特徴に、合併する精神疾患が多いこともあげられます。二O代の男性のアルコール依存症においては、うつ病と神経症を合計すると四O%におよび、ついでパーソナリティ障害の二七%が多いのですが、他の薬物依存一八%や摂食障害一二%も認められます。若い女性のアルコール依存症においては、過食症や拒食症などの摂食障害が七O%を占めており、また境界パーソナリティ障害も五O%におよんでいます。これらはそのほとんどが、アイデンティティ障害にもとづく疾患であると考えられます。つまり、若いアルコール依存症のほとんどはアイデンティティ感覚に悩み、そのためさまざまな精神疾患が発生したり、アルコール依存に陥ったりしている人達なのです。

背後に機能不全の家庭が
彼らの成育史を聞くと、アイデンティティ障害の由来を推定することが出来ます。若いアルコール依存症者は、親のアルコール問題を持つケ1スが三六%におよぶことは触れました。これは単に体質的な遺伝ということばかりでなく、アルコール問題を持つ家族におけるさまざまな困難さを背負っていることでもありますが、このことは後で触れます。また彼らの三O%は二O歳以前の親との離別体験を持っています。親との離別の多くは親の離婚によってもたらされています。離婚した家庭がみな不幸ではありません。私の知り合いでも離婚して結構うまくやっている家族もいます。しかし、離婚した家庭はそれなりの社会的ハンディキャップを背負わされるのが今の日本ですし、親の離婚によって傷ついてしまう子どもも多いのが現状です。
さらに彼らの家庭について詳しく聞くと、一見問題のないように見える家族においてもさまざまな問題がうず巻いていて、家族療法でいう所の「機能不全の家庭」であることが多いことがわかります。その代表は、親の夫婦不和と家庭内緊張です。極端な場合は家庭内離婚の状態の家族もいます。そうでない場合も、父親と母親の生活感覚が違うため、ことごとく両親の意見が対立し、子どもがいつもどちらの味方につくのかと責められたり、父親が仕事中毒でいつも不在で、そのような父親に不満の母親がいつも子どもを愚痴のはけ口にしたり、不安の強い母親が子どもを心理的に頼っていたりする
場合です。
二O才で飲酒運転で車を壊してしまい、それまでもひどい飲酒が続いていたために、自分でも怖くなり受診した男性がいました。彼の父親は石油パニックの時に事業に失敗し、全ての財産を処分しても借金が残りましたが、それ以来父親は魂が抜けたようになり、仕事も転々として世の中への不満ばかりをいい、家族に対しても文句ばかりをいう存在になりました。母親は生活のためと借金返済のため、昼も夜も働きました。彼は愚痴ばかりいう父親への反発があり、いつしか父親と口をきかなくなりました。母親はいつも疲れ果てていましたが、成績のよかった彼に「おまえだけが頼りなのだから」といい続けました。彼は疲れ果てていた母親には優しく、何かと母をかばっていました。しかし家庭の中の窒息するような雰囲気に耐えられない感じは持っていました。進学校と呼ばれた高校に入学した彼は、急速にロックミュージックに傾斜しました。仲間と,ハンドを作り、夜遅くまで練習したりフェスティバルに出演したりで、家に帰らない日が続きました。仲間と飲んでは「学歴なんかくそ食らえ」と気炎を上げていました。最低の成績で卒業しましたが、彼はロックで生きていくつもりで、ギターばかり弾いていました。ところが、卒業すると彼の仲間は急に進学のことを口にして、バンドから離れていきました。ひとりぼっちになった彼は、自分だけはプロを目指すのだといい聞かせていましたが、その頃から急に飲酒量が増えて、毎晩泥酔する日が続きました。何回かオーディションを受けては失敗し、彼は自分に才能がないと考えるしかなかったのですが、バイトを始めても給料は全部酒代になってしまい、ついに飲酒運転で事故を起こすことになったのでした。彼は受診した時には呆然として、自分はどうやって生きて行けばよいのかわからないとつぶやきました。彼にとって家庭は安らぎがなく、家庭からの逃避と青年期の強がりから生きる方向を見失い、アルコール依存に陥ったのでした。
このように、若いアルコール依存症におけるアイデンティティの不確実感は、さまざまな家庭環境とも関連しています。家庭の問題に限らず、若いアルコール依存症は、現代社会の矛盾のスケープゴトー(生賛の子羊)といえるでしょう。

治療は根気づよく
若いアルコール依存症は、治療困難な一群であることも特徴です。若いアルコール依存症者は、アルコールの治療のための入院のあいだに、四O%が飲酒(スリップ)をしています。これは中年のアルコール依存症者の二倍以上です。また久里浜病院における三か月の入院プログラムを終了できた者は五O%に過ぎませんでした。その他の者は、途中で退院するといい出したり、外泊して帰ってこなかったり、規則違反で強制退院となったのでした。治療からの脱落の割合も、中年のアルコール依存症者の二倍以上です。
さらに退院後の経過を、平均一四か月後に調べましたが、断酒を継続している者は一五%しかいませんでした。若いアルコール依存症の断酒率の低いことは、他の調査でも報告されています。中年のアルコール依存症では、退院一年後の断酒率は三O%ですから、若いグループでは半分しか断酒していないことがわかります。
以上の結果から、若いアルコール依存症は治療困難であり、治療後の断酒率も低いことが明らかです。なぜ若いアルコール依存症が治療困難であり、断酒率も低いのかを分析すると以下のことが考えられます。
(1)中年のアルコール依存症者は、あきらめH断念が出来る歳だから断酒も可能ですが、若い世代はまださまざまな欲望が大きく、あきらめが出来ないこと。
(2)若いアルコール依存症者では、自己嫌悪や自己破壊的傾向が強く、そのような心理が変わらない限り、自分を大事にするために断酒をするということに気づけないこと。
(3)若いアルコール依存症は、三O%のパーソナリティ障害が合併していることにも現れているように、パーソナリティの統合が悪く、断酒という継続的な事業を続けていくことが困難なこと。
(4)若いアルコール依存症者は酔っ払っていた時聞が長く、余りにも社会的経験が乏しいために、社会的現実の中ですぐに挫折してしまい、断酒を始めても、挫折しては飲酒してしまう繰り返しになること。
(5)中年のアルコール依存症者の回復モデルは、酒を止め、家族と仕事に戻るという比較的わかりやすいモデルであるが、若い世代の回復モデルは、断酒して自分の生きる目標を見つけ、安定した生活を築くという抽象的モデルになり、はるかに遠い目標になってしまうこと。
以上にあげた理由は、青年期における挫折体験から立ち直るには長い時間と心理的成長が必要であることと一致しています。アルコール依存症に限らず、登校拒否でも、過食症でも、青年期アパシーでも、あらゆる青年期における心理的挫折体験の回復には長い時聞がかかるものなのです。

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