問題飲酒者への指導と治療

難しい思春期の子どもの指導
今まで述べてきたことは、未成年者の飲酒が危険であることが社会全体の常識になるために、また未成年者の飲酒を抑制していくために、どのような方策が考えられるのかについてでした。しかし、現実には、私達の調査で明らかになったように、中学生の五%、高校生の一七%に問題飲酒の状態の子どもが存在しています。この子ども達に対して、早期発見、早期指導とはどのようなことをすればいいのかは、全くといっていいほど対策が立っていません。
問題飲酒者への指導方法が立てられないことは、未成年者の喫煙者、薬物乱用者への指導が困難ということと本質的には同じことです。二O年も前から未成年者の喫煙と、シンナーを中心とする薬物乱用に対して、学校も警察も児童相談所も家庭裁判所も格闘してきましたが、効果的な指導方法は見つけられないままに来ています。
アルコール・薬物乱用をめぐって、いつも、社会や大人達の「間違っている、やめるべきだ」という考え方と、子ども達の「自分達の勝手だからほっといてくれ」という意見が対立します。この基本的な点での対立で歯車がかみ合わないものですから、対策が立たないわけです。あるいは、子ども自身に「アルコール・薬物乱用は悪いことだ」という意識はあるのですが、その気持ちが「やめよう、大人のアドバイスを受け入れよう」ということに全然つながらないのです。大人のアルコール・薬物依存症の治療においても、いかにして本人が「やめよう、他人の指導を受け入れよう」という気持ちになるような道を作るのかが一番大事なことです。ですから大人のアルコール・薬物依存症の治療においても、本人が治療を受け入れる気持ちになるように、家族やまわりの人達がどう対処するのかをまず指導しなければなりません。子どもの場合は、思春期心理による大人への反抗が含まれますから、子どもが「やめよう、大人のアドバイスを受け入れよう」という気持ちになることは、大人以上に難しいのです。

具体的対策
以上のことから、子どもの問題飲酒、あるいはアルコール乱用について、ここでは一般的な原則を述べます。
(1)子どもの問題飲酒について、「飲酒リ法に触れる行為」といういわゆる非行対策としてだけでなく、「飲酒H健康障害」という健康管理の問題としてとらえる視点は大事です。つまり、非難する、罰することではなく、本人の健康と生き方の問題として相談に乗る大人の姿勢が大事なのです。
(2)問題をあいまいにしないことも大事なことです。このためには、子どもの飲酒は間違っているという原則を、周囲の大人達が一致して子どもに伝えることが重要です。飲酒した時、それを他人のせいにするのではなく、飲酒したのは子どもの責任でもあることを明らかにすることです。そのためには、飲酒について子どもときちんと話し合うことが重要です。これはごくあたり前のことですが、実はこのことが一番難しいことです。それは、問題飲酒の状態にある子どもは、親や学校とのコミュニケーションを拒否し、自分の殻の中に閉じこもっていることが多いからです。子どもとまわりの大人達がきちんと話し合えるようになるためには、専門家の援助が必要なことがあります。
(3)子どもの飲酒問題、あるいは子どもの薬物乱用の問題に対して、専門的な知識を持った専門家の養成は重要なことです。現在、子どものアルコール問題・薬物乱用の問題に対して指導出来る専門家は、ほとんどいません。精神保健センターや保健所に、大人のアルコール問題についての専門家はいますが、薬物乱用に対して専門的な助言が出来るスタッフは少ないのです。さらに子どものアルコール問題・薬物問題の指導においては、アルコール・薬物に対する専門的な知識と、思春期・青年期心理についての知識が必要なのです。
(4)学校には、学校カウンセラーがぜひ必要です。文部省は一九九五年から、登校拒否やいじめ問題への対策のために、試験的にいくつかの学校に学校カウンセラーを導入することに決めました。不幸なことに子どもと親や教師との聞のコミュニケーションが取りにくい現状では、子どもの気持ちを聞き届けてやれるカウンセラーが必要になっています。学校カウンセラーにもアルコール・薬物乱用の問題の専問知識が必要です。子ども達が「このままでは危ない」と感じた時に、どうしたらいいのかアドバイスをする立場の大人が必要なのです。
(5)子ども達に、アルコール・薬物依存からの回復者のメッセージを届けることも重要です。アルコール・薬物依存症からの回復には、同じ病気を持ったもの同土が病気について・回復について話し合う自助組織が最も大きな力を発揮します。アルコールについては、断酒会と、AA(アルコーリクス・アノニマス――匿名断酒会)が活動しており、薬物依存においてはNA(ナルコティクス・アノニマス――匿名断薬会)、が活動しています。こうした自助組織においては、依存症で困っている仲間に自分達の回復のメッセージを届けることも自分の回復につながると会の目的にあげられています。
数年前からAAの中で若いメンバーが集まって、ヤングAAミーティングが継続的に行われるようになりました。ヤングAAミーティングでは、病院や少年院に自分達のメッセージを送ることも大事な役割であると考えており、久里浜病院やいくつかの病院を定期的に訪問して、そこでミーティングを行っています。ヤングAAミーティングのメンバーを招いて、彼らの体験談と回復についての話を生徒に聞かせた高校もあります。アメリカでは、ヤングAAのメンバーが、定期的に学校や少年院を訪問してミーティングを聞いています。日本ではまだヤングAAの力は小さいのですが、学校に招いて、自分は飲み渇きていると考えている生徒に体験談を話してもらうことが出来るようになれば、すばらしいことです。若いアルコール依存症からの回復者の話は、子ども達にリアルな話として耳に入るはずです。ヤングAAミーティングは、日本ではまだ一Oか所くらいでしか活動していません。もし近くにあれば、問題飲酒の子どもをミーティングに参加させることが出来ます。NAは若いメンバーが中心ですし、薬物依存からの回復を志す人達の生活共同体であるダルク(DARC-ドラッグ・アディクション・リハビリテーション・センター薬物依存からの回復センター)へも参加は可能です。
(6)アルコール・薬物乱用においては、家族が本気でその問題に取り組むようになることが、本人の「やめよう、大人のアドバイスを受け入れよう」という自覚を生む大きな力になります。家族がアルコールの問題にどう対処することが正しいのかを学ぶために、家族の自助組織であるアラノンがあります。また精神保健センターや保健所やアルコール専門病院・クリニックには、家族会・家族教室があります。親がそのようなところに継続して参加し、家族なりの解決法を学ぶことが必要です。家族が家族教室に参加しているうちに、本人が治療を求めて病院に受診することは多いのです。

久里浜病院では
日本では子どものアルコール問題は、潜在的であった問題飲酒が少しずつ顕在化し始めたところです。対策についての経験は乏しく、これから経験を積み重ねていくしかありません。
久里浜病院においては、一01二O代の若いアルコール依存症に対して、数人のグループでの入院治療を行っています。そこでは、基本的な生活習慣を身につけること、ミーティングを行って自分で考え自分で意見をいうことを身につけること、アルコール問題の学習をすること、スポーツ・作業を通じて身体を鍛えること、仲間との協調性を身につけることなどが目標になっています。ヤングAAやNAから月に一回メッセージにも来てもらっています。家族に対しては家族会に参加してもらっています。子どものアルコール依存症は、主にハイティーンの子ども達ですが、反抗期ともダブっており、治療のスタートにつくまでがまず大変です。彼らは人生の早い時期での挫折を経験しており、飲酒に逃避することでその傷口を一層大きくしてしまっています。彼らがお酒に逃避することをやめ、挫折から立ち直って自分の生き方が出来るようになるまでには、長い時聞がかかります。(巻末の「アルコール・薬物問題のセルフ・ヘルプ・グループ」参照)

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