はじめに――子どもの飲酒問題との出会い

 高校の先生から講演の依頼を受ける
私が子どもの飲酒問題に対して深刻になったのは、ふとした機会からでした。登校拒否の高校生やノイローゼの高校生の指導や援助などで知り合ったある高校の養護の先生から、生徒にお酒の問題について講演をしてほしい、と頼まれたことがきっかけなのです。その高校はいわゆる進学校と呼ばれている高校でしたが、その先生の話では、生徒が保健室に「先生、気分が悪いから寝かせてくれ」と来て、「どうしたの」と聞くと顔色は悪く、お酒の匂いはプンプンとしていていかにも気持ち悪そうだし、よく話を聞くと前の晩に友達と遅くまで居酒屋で飲んでいて、ろくろく寝すに学校へ来たというのだそうです。血圧も正常だし熱もないので、「それじゃしばらく保健室で寝てなさい」というとその生徒は、二時間ほどグーグー!と高いびきをかいて眠った後、目を覚ますと「先生どうもすいません」とけろりとして教室に向かうのだそうです。そういうケースが余りにもたくさんあり、生徒がまったく平気な顔をしているのをその先生は見て、高校生にアルコールの怖さを教えてほしい、と私のところへ来たわけです。
子どものアルコール依存症には、私は数年前から病院で出会っていました。たとえば対人恐怖症のために、朝一杯のお酒をグーイと飲んで勢いをつけてからでなければ登校出来なかった高校生、高校を中退してからは、シンナーかアルコールがないと一日も過ごせず、親が止めると暴力を振るう子どもとかです。しかし私は、まだそのような子どもはごく特殊な子どもであると考えていました。子ども達がお酒をよく飲むようになっていることは知っていましたし、高校で行事の後の打ち上げやコンパという言葉が使われるようになっていることも知っていましたが、私が病院で出会ったアルコール依存症の子ども達と、その他の多くの高校生を関連,つけて考えることは出来ませんでした。
 飲酒アンケート
私はその先生とアルコールの怖さを、高校生にどう教えたらよいか相談しました。アルコールの怖さはいろいろありますが、子どもにリアルにわかるようなメッセージはないものかと考えたわけです。その時にまず思いついたりが、生徒にアンケートをしてどのくらい飲んでいるのかを調査し、「君達はこんなに飲んでいる」と話すというアイデアでした。そこで早速アンケートを作って生徒に答えてもらい、その結果を集計して講演に臨むことになりました。
ところが、そのアンケート調査の結果を集計してみて、私自身、がびっくりしてしまったのです。比較的成績のいい、おとなしい生徒の集まりと考えられているその高校において、リスクの高い飲酒(問題飲酒)の状態にある生徒が一割以上も存在していたのです。これは大変な事態が進行しているとその時に感じました。また、もしかしたら、これはこの高校だけの特殊なできごとなのかもしれないとも考えてみましたが、それを裏づけられるような情報はありませんでした。
さて、講演の日がやって来ました。私は「子どもとアルコール問題」というテ17で生徒達に語りかけました。しかし、講演はあまりぱっとせず、生徒達を十分に引きつけることが出来なかったようで、今でも残念に思っています。
その後私は、講演が思い通りにいかなかったのでいくぶんめげていましたが、それよりも、この高校における飲酒状態が特殊なものか一般的なものかを知りたいという思いに強く駆られ、早速知り合いの先生に紹介してもらい、同じ県下のいくつかの高校の調査に取りかかりました。校長先生の集まりに行って調査のお願いをしたり、学校に行ってお願いをしたりの日が続きました。神奈川県下の何校かは調査を快諾してくれました。結果をすグー出したかったのですが、アンケート結果をデータ用紙に書き写し、それをコンピュータに入力するための長い時間も必要でした。そして、数校の調査結果についてのデー夕、がコンピュータから印刷されてきた時、私はやはり驚きで胸が詰まりました。
 膨大なアルコール依存症予備軍
私が講演をした高校における、リスクの高い飲酒をしている生徒が一割以上という数字は、その高校だけの特殊性ではありませんでした。否、むしろその高校は低い方の水準であり、高校によっては三割以上の生徒がリスクの高い飲酒をしていました。そうすると、私が病院で治療した何人かのアルコール依存症の子どもは、決して特殊なケースではなくて、むしろ氷山の一角で、その下には膨大な数のアルコール依存症予備軍の子ども達がいるといった方がよいのだと考えざるを得ませんでした。それ以来、私の関心は「思春期・青年期とアルコール問題」に絞られてきました。飲酒問題の調査対象を全国に広げ、高校生ばかりでなく、中学生・大学生にまでも広げました。調査を通して私は、一つの確信を持つことができました。それは、今日本では、未成年者の飲酒は確実に増大しつつあり、大人達は、学校においても、社会においても、家庭においても、増大しつつある子どもの飲酒を直視することを恐れて蓋をしようとしていること、問題が深刻であることを感じながらあえて蓋をしているため、問題を見えにくくし、一層深刻化しつつあることです。
この本の中で私は、わが国の子どもの飲酒の実態を、子どもの置かれている社会的現状と照らし合わせ、できるだけ詳細に記しました。現状では子どもの飲酒は、ファッションとみなされることが多いのですが、今や子どもの飲酒は、健康障害の重大な原因となっています。子どもの飲酒問題を考えることは、とりもなおさずわれわれ大人の生き方、社会のあり方を聞い直すことにほかならないと痛感しました。

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