覚醒剤

源流は戦争、戦後は暴力団
覚醒剤乱用の源流は戦争です。覚醒剤は、気管支哨息の治療薬であるエフェドリンの誘導体であるアンフェタミン、メトアンフェタミンです。この物質は一九三0年代に製造され、第二次世界大戦においては連合国側も、枢軸国側も兵士の戦意高揚のために使用したのでした。戦後の日本においては軍から放出された「ヒロポン」と呼ばれたアンプルが大量に出まわり、誰でも使用して大流行になりました。覚醒剤による精神病「ヒロポン中毒」が大量に発生し、一九五四年に覚醒剤取締法が作られて戦後の流行は終わりを告げました。精神病院には、その時のヒロポン中毒による慢性精神病状態の患者がまだ少数残っています。その後一九七0年代になり、暴力団がアジアでの密造と国内での販売のシンジケートを作り出し、現在に至るまで第二次流行が続いています。
覚醒剤は、結晶の形で取り引きされ、水に溶かして静脈注射で使用します。最近はスピードと称して、スプーンなどに乗せてライターであぶり、蒸発した煙を吸う方法も使われています。アメリカでは錠剤が使用されていて、注射は少ないようです。覚醒剤の特徴は、暴力団ルlトで、「シャブ」と呼ばれ値段が高いことです。一O回分で四1五万円といわれています。覚醒剤を注射すると、頭がスッキリし身体が軽くなり、身体にエネルギーが満ちてエクスタシーに似た悦惚感に包まれます。勉強にも熱中出来、大胆になって勝負にも強くなり、SEXにも強くなり、何でも出来るという感覚になるのです。ただし、薬の作用はニ~三時間でなくなり、それまでの状態とは逆の気力の出ないだるい惨めな気持ちが襲ってきます。

ハードドラッグ
覚醒剤の使用方法は、時々手に入ると仲間で一緒に注射し合うという機会使用と、毎日使用する場合、たとえば、長距離トラックの運転手が夜に走る時に注射するとかがあります。その他「めちゃ打ち」という使用の方法があり、徹夜のマージャンなどの場合、薬の作用を持続するために二~三時間おきに注射するのですが、だんだん作用は弱くなるので、量を多くして注射の間隔も短〈しなければなりません。注射をしながら不眠不休で動きまわり、四八t七二時間続けると眠気が襲ってきて深い睡眠に入り、その後数日間だるくて惨めな「つぶれ」と称する期聞が続き、それが終わると、猛烈に食べて体力を回復するというパターンです。
薬物依存は、一つの薬だけを使用するタイプは少なく、あれこれといろんな薬を使います。つまり多剤乱用が多いのです。ある患者は、けんかに行く時や悪いことをしに行く時はシャブを打って気合いを入れて出かけ、疲れてのんびりしたい時はシンナーを吸ってぽーとしていると話していました。
一応はそのような使い分けをしているようですが、彼は覚醒剤を何とかやめようとして、渇望感が強い時にはシンナーを吸っていました。つまり、シンナーは覚醒剤の代理の役割もするわけです。これではやはり薬はやめられません。
覚醒剤はシンナーと並ぶわが国における依存性薬物の中心で、このこつでわが国の違法性薬物による検挙者の八O%を占めています。そして覚醒剤はシンナーよりもはるかに強い依存性と毒性があり、コカインと共にハlドドラッグの代表です。覚醒剤は精神依存を起こす力が強く、薬の値段も高く、そのため薬を手に入れようとして窃盗や強盗事件を起こすことが多いのです。このため覚醒剤依存症者は覚醒剤使用だけでなく、強盗などの罪で受刑することになります。これが覚醒剤の怖さの第一です。

怖い覚醒剤精神病
覚醒剤を長く使用していると、幻聴や妄想が生じて精神病状態が発生します。これを覚醒剤精神病と呼んでいます。これは慢性中毒症状ですが、覚醒剤精神病はシンナーなどよりはるかに出現頻度が高く、しかも激しい症状です。「やくざに追われている。警察がつけねらっている」などの被害妄想や幻聴があり、興奮状態も伴いますから、通り魔的な殺傷事件や人質事件などを引き起こすことが多いのです。覚醒剤精神病は数週間から数か月で軽快することが多いのですが、時には直らないままに慢性化することもあります。また、覚醒剤精神病はフラッシュパックが起きやすいことも重要で、覚醒剤を何年かやめていても一回使用するだけで幻覚妄想が再現したり、飲酒によって再現したりします。
一四才からシンナーを始め、一七才でつき合っていた男性から勧められ、数回の覚醒剤使用で幻覚妄想状態になった女の子がいました。その子は一年以上も幻覚が続き、怖くなってそれまでつつばっていたこともやめ、すべてに自信を失って家に引きこもってしまいました。外来では幻覚を収めることが出来ず、入院させてやっと幻覚が収まり、健康感覚を取り戻して退院しましたが、彼女にはまだフラッシュパックの危険があります。この子の場合はシンナーと覚醒剤のチャンポンのせいなのか、それとも未成年で脳がまだ未完成であったためかわかりませんが、少量で覚醒剤精神病が起きています。
二O代で覚醒剤精神病で受診した女性は、今は薬物乱用から離れて結婚して子どももいますが、二年に一回はフラッシュパックによる幻聴(どこかから自分の悪口が聞こえる)が起きて私の外来に来てはしばらく精神安定剤の服用をしています。彼女の場合は、生活上のストレスでフラッシュバックが起きています。

怖いC型肝炎
覚醒剤にはもう一つの怖さがあります。覚醒剤は仲間でまわし打ちをしたり、同じ注射器を何度も使ったり、注射器を共用したりします。ここから、C型肝炎になったり、HIV感染症(エイズ)の危険性が極めて高くなるのです。C型肝炎ウイルスもHIVウイルスも血液によって感染します。C型肝炎は肝硬変や肝ガンの原因となりますし、エイズには今のところ治療法はありません。C型肝炎ウイルスの感染者は覚醒剤依存症の中の二割以上に存在すると考えられています。HIVウイルス感染者の頻度についてはまだわかりません。覚醒剤による検挙者は、一九八0年代は年間約一万五000人位の一定の水準を保っていましたが、一九九O年頃から減少し、それまでの三分の二にまでなっています。これは、わが国の優秀な警察による、覚醒剤の供給源を断つ作戦が功を奏しつつあるためと考えられています。警察による覚醒剤関係の統計の最近の傾向では、若い人が減少しており、乱用歴の短い人も減少しており、逆に乱用歴の長い再犯者が増加しています。それでも覚醒剤によって一年間に約六OOO人が新たに刑務所にいれられており、全体の受刑者の中で三O%も占めているのです。犯罪統計によると、検挙される覚醒剤違反者は、若い人や乱用歴の短い人が減少し、逆に乱用歴の長い再犯者が増加していますが、若い女性だけが減少せず、全体の中で占める割合が増加しています。

五O%は未成年時代から
覚醒剤は、怖いおじさん達が使っているものという印象がありますが、実は覚醒剤の土要なマーケットはヤングにあります。つまりあらゆる薬物乱用は、ヤングがその主要な担い手であるということです。覚醒剤も使用開始年齢は五O%が未成年の時代であり、三O%が二O代前半なのです。これは薬物乱用の問題を考える時の忘れてはならないことです。シンナーの使用開始時期は一四~一六才が多いのに対して、覚醒剤では一七1一九才が多く、開始時期は少しずれています。私が治療した中では、一四才から覚醒剤を始めた女性がいました。家出をした時、暴力団から覚醒剤を注射されたそうです。それからずっと暴力団の男性と一緒に暮らし、妊娠中も覚醒剤を使用し、相手の男性が逮捕されてパニックとなり覚醒剤精神病で入院しました。二二才なのに、妊娠の自覚がなく、尿に蛋白も出ているのに治療食をまずいと食べず、スナック菓子ばかり食べ、タパコもやめず、その精神の荒廃ぶりは私達に絶望感を抱かせました。赤ちゃんは何とか無事生まれましたが、低体重で仮死状態の出産でした。覚醒剤ベビーの詳しい障害はわかっていません。
覚醒剤の第二次流行期が終わりつつあるのかどうかは、まだ判断出来ません。この間覚醒剤対策は、覚醒剤取締法による罰則強化が主な対策でした。ですから、全国の刑務所に一万人の覚醒剤違反者が収容されていますが、精神科で入院治療を受けているのは五OO人に過ぎません。精神科で治療している人は、覚醒剤精神病がほとんどです。この毒性の強い、反社会性の強い薬物に対して精神医療は、まだ有効な対策を持てないでいます。

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