日本の子ども達は今、さまざまな困難を抱えています。それらは登校拒否であったり、引きこもりであったり、拒食・過食症、いじめ問題その他さまざまです。本書で取り上げた子どもの飲酒問題と薬物乱用の問題は、そのような子どもが抱えている問題のほんの一端に過ぎません。ことに近年は、急性アルコール中毒や、薬物乱用で死んでいく子どもの数が目立つようになり、アルコールや薬物の乱用でだめになっていく子どもは、今や見過ごすことのできない状況です。この本は、そのような現実に対する警告として書かれました。
一方、私の臨床経験では、親が、的確に子どもの出しているクライシスコールに気づき、子どもと本気で向き合い、問題に腰を据えて取り組む時、子どもも変わってくることを多く経験しています。その意味でこの本は、先ず大人達が早く的確に、子ども達のクライシスコールを読み取れるようになってもらいたい、という思いを込めて書きました。
子どもとアルコールの危険な関係を止めさせるための行動は、まだ始まったばかりです。学校の教師から、PTAから、子ども達自身から、そして市民団体から、ようやくさまざまなアイデアが出され行動に移されつつあります。こうした行動を、すべてここに取り上げることは出来ませんでしたが、そのような動きが大きな流れになっていく時、子どもの飲酒問題に対する認識が高まり、世の中も変っていくに違いありません。その日が、少しでも早く来ることを祈らずにいられません。

この本を書くにあたっては、多くの人達の力をお借りしました。調査の段階から常に励ましていただいた国立療養所久里浜病院の河野裕明名誉院長、林田基院長、未成年者の飲酒問題に共に取り組んでいる高木敏副院長、樋口進医師とその他の同僚達、膨大なデータの処理を引き受けてくれた心理療法士の武田さん、高校生の飲酒問題の深刻さを教えていただいた高校養護教師の布川、阿部の両先生、アルコール保健教育研究会の原田、小林両先生、早くから子どものアルコール問題に警告を発してきたASKの人達、そして、いつも「若者に未来はあるか」と議論しながら原稿の清書を引き受けてくれた妻、みなさんにこの場を借りてお礼を申し上げます。また、この本は、東峰書房の高橋衛氏の、粘りづよい情熱があってこそ完成に至ったことをここに記します。

一九九四年一一月
鈴木健二