情報化社会

商品としてのし歩く情報
子どもの飲酒が、情報化社会によって促進されていることは明らかです。テレビから流されるアルコールと飲酒についての情報は、子ども達の心をとらえてしまうことは先に述べました。
情報化社会の問題とは、単にアルコールについての情報が溢れていることに問題があるのではありません。フィクションとしての情報が溢れることで、生きるということの全体性が寸断されること、情報の洪水によって情報の受け手の生き方が受け身的になること、情報という人工的なものを基礎とした認知しか身につけられないこと、個人情報が勝手に利用されてプライバシーがなくなることなどがあります。以上のことは、子どもの発達にとって致命的な影響を与えるのではないかと考えられます。

情報化時代は驚くほどに疲れる時代です。私なども、職場にも自宅にも毎日溢れるほどのダイレクトメールや医学雑誌が届けられ、それを全部読んでいると一日終わりそうです。我々臨床医が知っておかなければならない医学情報もどんどん増加しており、それがまた情報の洪水として押し寄せてくるので、情報に飽き飽きしながらも、自分の知識量への不安にさいなまれるのです。つまり情報化社会は、人を常に不安にさせるように情報の流れができています。これはちょうど大量消費社会の不安と同じことであり、情報が商品としてのし歩いているからです。
情報化社会で最も恩恵を受けているのは、時代の先端を走っていると自認している人々です。政治家、銀行マン、企業戦士、先端科学を担一う科学者達、そして情報産業の担い手です。彼らは人より早く情報を得ること、人より早く情報を送り出すことが競争に勝利することなのです。
庶民にとっても、この情報の氾濫は確かに便利ではあります。テレビからはあらゆる情報が流れてきます。旅行雑誌、料理雑誌、学習、趣味と雑誌は目的に応じてたくさんあります。買い物もダイレクトメールがやって来ます。茶の間にいながら世界のことがわかり、自然の驚異にも触れることが出来ます。一人で居ながら多くの人と出会える錯覚にも陥ります。

情報化社会の落とし穴
しかし、この氾濫している情報はあくまで他人の加工したものであり、他人の目を通した世界認識に過ぎないのが情報化社会の落とし穴なのです。イラクに対して世界中が戦争をしかけた湾岸戦争は、戦争が茶の間に入り込んだと同時に戦争をゲーム化したといわれました。湾岸戦争を映し出すテレビの画面はきれいでした。ある時は夜空の花火のように高射砲とミサイルが交差し、ある時はシューティングーゲームのように目標にミサイルが飛んで、見事に爆破するのを見ることが出来ました。しかしミサイルが本当に軍事施設を目標にしていたのかどうかは、戦争が終わってしか議論になりませんでしたし、逃げ惑う民衆の姿やミサイルによる水道と電気の施設の爆破による、イラクの民衆の悲惨な生活をテレビカメラは捕らえることが出来ませんでした。つまりアメリカの情報操作によって、世界中はアメリカの勝利に酔わされたのでした。湾岸戦争が終わり、マスコミは、口々にアメリカの情報操作と自主的な報道への干渉がいかにひどかったかと語り始めましたが、テレビ画面の強いインパクトは消し去ることはできませんでした。湾岸戦争についてマスコミが流し続けた情報は、今や高度の戦争技術は悪者だけをやっつけることが出来るというメッセージで、あらゆる戦争は民衆の悲惨を伴うものだ、というメッセージではなかったのです。
美しい自然を映し出すテレビで我々は、茶の間にいながら自然を満喫できる気分になれます。珍しい動物も美しい花も見ることが出来ます。しかし、自然はきれいであるばかりでなく、変わりゃすく、汚く、残酷で、人間よりも巨大な力で襲ってくるものです。子ども達を自然の中に連れ出すと、今の子ども達が自然の中で遊べなくなっていることに気づきます。川を怖がり、草が体にさわることを嫌がり、虫を怖がります。人間の自然への認識は、人間の五感で触れ、自然と時聞を共有することで徐々に作られていくものですからこれは当然のことです。
テレビは世界の文化を紹介しています。それを見ていると民族と国境は容易に越えられ、異文化と交流ができると錯覚します。しかし実際の出会いにおいては、異民族や異文化との交流は大変な努力が必要です。言葉の壁ばかりでなく、生活習慣や文化の違いが大きいからです。冷戦の終結と世界的な情報化社会の広がりの中で、なぜ旧ユーゴスラビアにおける民族紛争があれほど泥沼に陥るのか、マスコミは答えることが出来ません。むしろマスコミは、情報化社会の広がりが民族対立を減らせると宣伝していますが、これは欺繭といえます。

子どもの力を奪う情報の氾濫
この情報化社会は便利なものと考えられています。しかしその裏には、個人情報が勝手に利用され、個人情報によって個人のニードを把握し、販売戦略を立てることが行われています。つまり、情報化社会では自分が買いたいから買うのではなく、情報操作で買わされるという逆転が起きているのです。
この情報の氾濫は人間と自然、人間同士の関係の中から学び、自分の力を知り、自分の存在を知る力を子ども達から奪いつつあります。私は思春期の情緒障害の子ども達の治療をしていますが、その子ども達がいつも口にする「タレントになりたい」「アメリカに行きたい」という言葉には閉口しています。子ども達は行きやつまり、袋小路に入り込んでいる今の自分の現状を一挙的に解決する手段として、その二つをあげるのです。情緒障害の治療とは、袋小路から抜け出す解決法を見つけることであり、今解決できることを見つけることです。しかし子どもは一挙的な解決を望むのです。
私の外来に来た一八才の少年は、中学校から登校拒否になり、さらに対人恐怖になったため四年間も家から出ない生活を続けてきました。彼が私に望んだのは、家族が何もしてくれないから、すぐにアメリカに行けるようにしてほしいということでした。彼は、アメリカに行けば全てが何とかなると考えたのでした。私は彼の対人恐怖が直り、英語の勉強をすれば家族を説得しようと話しましたが、彼は納得しませんでした。私と彼はそのことで何度も話し合いましたが、お互いに平行線をたどりました。ついに私はあきらめて、彼のアメリカ行きを家族に説得し、その代わり、パスポートは自分で準備するように提案しましたが、そこで彼は、パスポートも家族が準備するべきだといい始めました。そのことでまた延々と話し合いをするしかありませんでした。
彼は特殊なケースです。彼は四年間も家にこもり、テレビばかり見ていて「アメリカに行けば何とかなる」という幻想を作り上げたのです。しかし、情報化社会は子どもをこのように受け身的にし、現在の自分に出来ることから出発するのではなく、他人に依存しながら他の世界に飛ぶことが解決になると幻想を送り続けているのです。この心理は、困難な課題から逃避し、アルコールによる酔いを求める心理と驚くほど似ています。

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